陳情第15 家族従業者の人権保障のため「所得税法第56条の廃止を求める意見書」提出を求める陳情

【付託】 平成23年第4回定例会

【要旨】
 全事業所の90%を占めるといわれている私たち中小業者は,文字通り地域経済の担い手として,日本経済の発展に貢献してきました。しかし,長期不況に追い打ちをかけるように,リーマンショック以後に進行している深刻な経済情勢の中で,倒産・廃業などかつてない危機に直面しています。
 そんな中で,業者婦人は自営中小業者の家族従業者として,営業に携わりながら,家事・育児・介護と休む間もなく働いています。しかし,どんなに働いても家族従業者の「働き分」(自家労賃)は,税法上,所得税法第56条「配偶者とその親族が事業に従事した時,対価の支払いは必要経費に算入しない」(条文要旨)の規定により,必要経費としては認められておりません。
 事業主の所得から控除される働き分は,配偶者の場合は86万円,家族の場合は50万円です。配偶者もさることながら,息子などの家族従業者は,僅か50万円の控除が所得とみなされるため,社会的にも経済的にも全く自立できません。このことは,同じ制度が適用されている農林業,水産業と石岡市の基幹産業での後継者を育成する上でも足かせになって,後継者不足に拍車をかけています。
 所得税法第56条は,日本国憲法の法の下の平等(憲法第14条),両性の平等(同24条),財産権(同29条)などを侵しています。税法上では青色申告にすれば,給料を経費にすることができますが,同じ労働に対し,青色と白色で差をつける制度自体が矛盾しており,基本的人権を侵害しています。
 明治時代の家父長制度そのままに,人格や労働を認めない人権侵害の法律が,現在も業者婦人を苦しめており,ドイツ・フランス・アメリカなど,世界の主要国では『自家労賃を必要経費』としている中で,日本だけが世界の進歩から立ち後れ,取り残されています。私たちは税法上も,民法,労働法や社会保障上でも「一人ひとりが人間として尊重される憲法に保障された」権利を要求します。全国では337を超える自治体が意見書を国に提出しており,茨城県でもやっと,つくばみらい市が意見書を採択して国に56条廃止の意見書を提出しました。
 貴議会において,主旨を充分にご理解頂き,地方自治法第99条の規定に基づき,国の関係機関に意見書を提出していただきたく陳情いたします。


【委員長報告の要旨(総務企画委員会)】
 委員会では,はじめに本陳情の受理の経緯及び概要について説明を受けました。
 その後の審査において,委員から,労働に対する対価は払われることが当然であり,それにより家族従業者が経済的に独立でき,人格を認められ平等な権利が与えられるということを基本原則として考えるべきである。またこれは明治時代の家父長制度そのままで,人格や労働を認めない人権侵害の法律に苦しめられた方々の切実な体験から広まったものであり,こういう思いに共感し採択すべきであるという意見。また当市議会においてこれまで様々な意見書を提出してきたことから考えれば,本陳情が明らかに妥当性を欠くものでもなく,決して不当な願意ではないという判断にたち,了とすべきであるという意見。さらに,所得税法第56条が廃止されることで,家族従業者の人権が保障されるとは単純には言い難いが,現在の景気の悪化状態,また個人の尊厳が守られないような状況の中で,配偶者が86万円,その他の専従者が50万円という控除は,確かに低いものであり,これらを見直す意味でも,第56条の廃止を機に今の時代に合った体制を作っていくという観点から賛成であるという意見が出されました。また,陳情者の願意は,十分理解できるが,所得税法第56条の廃止によって,租税義務を回避する目的で,家族に不当に高い給与を計上するなどして,不当な利益を受けることも懸念されるため,廃止する前に国において必要な法の整備を行うべきであるということから,継続審査とすべきであるとの意見。同様に,この件は国において議論することが必要であり,継続審査とすべきとの意見が出されました。
 以上の審査の後,討論するものはなく,採決を行った結果,本陳情については,「採択すべきもの」と決した次第です。


【結果】 
採択